「業界」は一体どっちを向いているのか?―挑戦者は常にアゲンストの風にさらされる― Ⅲ
さて、革新を目指す経営者にとって「伝統」という縦軸以上に厄介なのが「業界」という横軸との戦いです。
こことの戦いは、伝統があるタイプの事業であろうが、ないタイプの事業であろうが関係ありません。
例えば、私の所属している税理士の業界は、50年以上の歴史があるとはいえ、伝統産業といったタイプのものではありません。
しかし、ここにも当然「業界」というものは存在し、その体質はおおむね保守的です。
伝統産業において、その保守意識という存在は我々が想像する以上に堅固なものなのかも知れません。
桜井社長も、その壁にはかなり大変な思いをされたようでした。
その抵抗の一つは、原料である清酒用の米を確保するときに現れました。
一社でたくさん買い過ぎるというのです。
ここで面白かったのは、旭酒造が買い過ぎたためにほかの酒造会社の清酒米が足りなくなったからクレームが出た、のではないということなのです。
自分のところに、必要という訳ではないのに一社で買い過ぎるのは気に食わない、という理屈なのです。
この辺りは聞いていて、業界というものの保守性というよりも、そのエゴイズムに呆れさせられます。
「何故、昔ながらのやり方を踏襲して、他社と横並びで行こうとしないのだ。」
という理屈です。
これにはさすがに桜井社長も従うわけにもいかず、調達先を変えるなどいろいろな工夫や苦労をされたようです。
横槍は、清酒業界からだけではなく、JAなど周辺の、従来業界とのつながりがあった他の業界からもあったようです。