30年早い!―ゴールデン街異聞2―Ⅱ
これは私にとって少し珍しい現象であった。
これだけ客がいれば知っている人の一人や二人は必ずいたものだが、新陳代謝は進んでいるらしい。
それはそれで結構なことなので、私は黙って飲んでいた。
すると、カップルで来ていた30代とおぼしき男性の方が、隣の若い男性客に諭し始めた。
「いいかい。
最近ゴールデン街は何かと賑やかみたいだけど、この店を知らずしてゴールデン街を語っちゃいけないよ。
この店はゴールデン街のシンボルみたいなものなんだから。
他のチャラチャラした店と一緒にしちゃあ失礼ってもんだよ。
君もよーく覚えときなさい。
何といってももう15年も通っている俺が言ってるんだから間違いない!」
と、偉そうにまくし立てている。
私は黙って飲んでいたが、このセリフにはいささかカチンときた。
「ちょっと待ったそこの若ェ―の!
たかが15年くらいでエラそうな口きくんじゃないよ!
こちとらはかれこれ44年通ってるんでぇー。
そもそも通い始めて15年くらいで、他人様にそんな説教垂れんのが許されると思ってんのかい。
30年早いわい!」
と、心の中で啖呵を切る。
つづく