伝統の破壊と再生―日本酒の挑戦―Ⅹ

さて、このように様々な紆余曲折を経て、現在のポジションを確保してきた『獺祭』であるが、今後の見通しについてリーダーである桜井氏は、どのように考えているのであろうか。

 

― 設備投資を行った結果、2015年には生産能力は年間9000キロリットルと約3倍になった。

獺祭は手に入らない酒だから価値がある、という見方もある。

量が増えると、価値が下がる恐れはないのだろうか。

「日本酒業界は希少性にとらわれすぎだと思います。「幻の酒」という言葉がありますよね。しかし、3回に1度ぐらいは手に入らないと、本当の幻になってしまう。供給が続かなければ、ブランドは維持できません。「いい酒」は希少だから価値があるのではなく、おいしいから価値があるのだと思います。」―

 

希少性の高い商材については、意図的に出荷を制限して、常に市場を飢餓状態に置くという「ハングリーマーケット戦略」があるにはあるが、桜井氏はあえてその手法はとらないという。

 

― 「いい酒」は希少だから価値があるのではなく、おいしいから価値がある―という氏の言葉は、まさに物事の本質を言い得た表現であろう。

小手先の手法に拘らず、ビジネスの王道を行く氏の考え方をよく表している。

 

 

 

つづく