伝統の破壊と再生―日本酒の挑戦―Ⅸ

杜氏達との確執とその廃止販売業者への挑戦的な宣言といった経緯を経て、桜井氏はどのような結論に達したのか。

 

― 「安くすれば売れる、というのは嘘です。もう二度とやりません。」―

 

これは極めて重大な結論である。

言葉自体は短いが、そう簡単に誰でも言えることではないのだ。

 

私は

「誰だって、安くしなくても売れるもんならそうしたいと思っているに決まっている。」

というのはだと思っている。

 

この言葉には前提条件が付く。それは

「今までのやり方を変えないで・・・・」

という枕詞である。

 

人は、「今までのやり方を変えれば売れる。」「安くすれば売れる。」のどちらかしか選べないとしたら、私が予想するにおそらく「安く・・・・」の方が多いのではないか、と思う。

 

「そんなことはない!」と言う人がいるかも知れないが、少なくとも私がこれまで見てきた多くの現象はそうであった。

人は工夫する前に値を下げるのである。

それくらい、現状を変えて創意工夫をするのはきついのだ。

 

私の業界でも、現に多くの税理士がサービスの内容を変えないで、値下げで勝負しようとしているではないか。

 

 

 

つづく