夢の2拠点生活?―ウロつく人生もまた面白かったりして―(後編)
多額の住宅ローンを抱えてしまった
さて、前置きが長くなってしまった。ここからようやくタイトルに書いた「2拠点生活」の話に入っていく。
東京を引き払い、田舎に帰った私は、まず家族5人が住めるやや大きめの住宅を建てて、かなり多額の気が遠くなりそうな長い年数のローンを抱えてしまった。そのとき、薄々とではあるが『俺の終の棲家は、この田舎になるんだろうな。』と覚悟したのである。
ところが、ライフスタイルという奴は刻一刻と変化していく。5人で住むのに充分な広さ、と思って建てた家も、いくらもしないうちに長女が私立の寮のある高校へ進んだため一人減ってしまった。その後、次女と長男も続けて大学進学と同時に家を出て、かつて住んでいて少しは土地勘もある東京へと行ってしまったのである。
思っていたより意外に早く、カミさんとこのちょっとデカ目の家に二人きりになってしまった。こうなるまで、ある程度の年数はあったものの、想定していたよりはかなり早くそのとき(二人きり)はやってきたのだった。
東京に永住を決め込んでしまった
カミさんと二人の生活はしばらく続いたが、やがて、長女と次女、娘たちが東京在住のまま次々と結婚し、それぞれの家庭に孫たちが生まれ始めた。出産に際して娘たちを手伝うために、カミさんはときどき上京してはあちらに滞在するようになった。
また、その間にも田舎では、カミさんは私の両親の病院通いの面倒をずっと見ていたのだが、やがて父が亡くなり、その負担もやや減ってきた。それと同時くらいに、今度は娘たちの家庭に二人目の孫たちが生まれ始めたのである。
そんなあるとき、とうとう娘たちから「ママ、こっちがいろいろと大変な状況なの。助けて。」とのSOSが入った。娘たちは上の子の面倒を見ながら、二人目の出産の大変さも重なってカミさんに助けを求めてきたのだった。
そうするとカミさんは「孫たちの面倒見なければならないから、私行ってくるわ。」と、宣言し、東京へと去ってしまったのである。私より孫たちの面倒を見ている方が幸せなのである。まあ、当たり前だが。こうなるともう短期滞在ではすまない。そのうち住民票も移して永住を決め込んでしまった。
いびつな形の2拠点生活ではあるが
幸い、長女と次女はすぐそばに住んでいるので、カミさんは両方を行ったり来たりしながら、4人の孫たちの面倒を見ている。またそのすぐ近くに小さなマンションもあるため、ときどきは孫の守り疲れの身体を休めることもできる。
こうして夫婦二人そろっての2拠点生活ではなく、なんかいびつな形での2拠点ができ上ってしまった。狭いマンションではあるが、東京に拠点ができたのは大きかった。
私が上京したときの拠点としても、そのマンションが使えるのはありがたい。私はそこに一通りの着替えや靴なども置いているので、ほぼ手ぶらで上京し、都会生活を楽しんでいるのだ。
田舎の家の長かったローンも、ようやく数年前に終わった。田舎の家は、ロケーションの素晴らしい立地を選んだので、たった一人で住むはめになったとはいえ、今のところ手放す気はない。
つまり現在私は、景色の良い田舎の広い家に一人で暮らし、東京のほぼ家族全員が住んでいる傍の小さなマンションにときどき出かける、という2拠点生活を送っているのだ。とはいえ日常生活は、現役で働いている関係上、田舎がどうしても主とならざるを得ない。
24時間は短すぎる
田舎が主たる拠点。もちろんそれが当たり前で、全然かまわないのだが、たまに東京へ出たときの約一週間くらいの滞在が、慌ただしすぎてどうにも落ち着かない。家族との交流、会いたい人、行きたいところ、新しい試みなどやりたいことは山積みである。
東京での一日は、早起きをしてラジオ体操に参加し、カフェで原稿を書くというルーチンからの出発である。その後昼を迎え、カミさんや娘たちと昼飯を食べることもある。それから、午後のひとときを誰かと会ったりして過ごし、やがて夜になるのだが、その一日があっという間なのである。
忙しい、というのとはちょっと違う。やりたいことに対して、24時間が短すぎるのだ。
やりたいこと、やるべきことがびっちり詰まっているのだが、もうちょっとダラダラやっていても済んでしまうくらいの時間的ユルさが欲しい。しかし、24時間はあっという間に経ってしまう。
これは気持ちの問題なのか、それとも体力の問題なのか、とにかくもう少し時間の余裕が欲しいのだ。などと、愚痴を言っていても始まらない。こればっかりは自分でなんとかするしかない。
こうして強く望んだわけでもないのに、いつの間にか流行りともいえる2拠点生活を手に入れてしまった。しかも、日本の中でもトップクラスの田舎である鹿児島は大隅半島と日本の中心である東京を行ったり来たりするというギャップを楽しんでいる。
せっかく手に入れた面白いライフスタイルだ。今後やるべきことをしっかり頭に叩き込んで充実の人生を送ろうと企んでいるのである。

東京象徴「東京駅」
おしまい