イスタンブール一人ぼっち―誰か俺をこの孤独地獄から救ってくれぇーっ!―
 (前編)

初めての一人海外旅行

この歳になって、ようやく旅行でも楽しもうかという気分になってきた。これまで参加した海外旅行のような大きな旅は、家族と一緒か業界で企画した団体旅行などに限られていた。

しかし、コロナ以来、業界サイドの旅行はめっきり少なくなってきている。家族旅行の方は、カミさんを始め東京に住む娘たちは、向こうで勝手に行くようになってきた。東京を起点にあちこち動くのは便利だからである。

田舎で一人暮らしの私は、文字通りいつも置いてきぼりなのだ。まあ、まだ現役で仕事をしているので、離れて暮らす家族とのスケジュール調整はなかなか難しいという事情はあるのだが。

と、そんなわけで、このところなかなか旅行にも行けずにいた。とはいえ、こんなことをしていては、人生の楽しみなどいつまで経っても始まらない、と思い、とうとう一人で、「海外パックツアー」という奴に申し込んだのである。

 

ふーん「65歳以上限定ツアー」か・・

ところで私には、以前から行ってみたい国があった。それは、ポルトガルである。ポルトガル?ちょっとマイナーな国だけに不思議に思われるかも知れない。ただ、私にはイタリアとかフランスかとイギリスといった、ヨーロッパを代表する国々よりも行ってみたかった国なのである。

それは、上記にあげた観光大国に比べて、まだヨーロッパの原点みたいな風情や人情のようなものが残っているんじゃないか、という期待があったからにほかならない。素朴なお国柄、みたいなものを想定していたのだ。

そこでパンフレット等いろいろ探していたら、ちょうど良さそうなツアーが見つかった。よく見ると「65歳以上限定ツアー」と書いてある。別にそれを狙ったわけではなかったが、便利な羽田発でサービスなども至れり尽くせりみたいなので、このツアーに申し込んだ。

 

旅に際しては早め早めの行動を

申し込んでからの2ヶ月はあっという間に経ってしまい、いよいよ出発当日、羽田空港へと私は向かった。今回のフライトは夜の便である。

少し余裕を持って着いたので、国際ターミナルのショップを見たり晩飯を食べたりして時間をつぶす。指定の集合時間ちょっと前には、パンフレットに記載されていた旅行代理店指定のカウンター前に向かった。

すると、カウンター前には誰もいなかった。あれっ、ちょっと早すぎたかなとキョロキョロしていると、年配の女性に声をかけられた。

「海江田さんですか?」

旅行代理店の人で今回の添乗員さんだった。

「はい。」と私。

「皆さん、もう、ゲートの方へ向かわれましたよ。さあ、一緒に参りましょう。」

と彼女は出発ゲートの方へ歩き始めたのである。

「あのう、私が最後だったんですか?」

と、聞くと

「はいそうです。皆さんはもう手続きされていると思います。大丈夫ですよ。まだ時間に余裕はありますから。」

と言うではないか。

私は指定の時間通りに行ったつもりだったが、ツアーのメンバーはとっくに集まって出発ゲートへと移動していたのであった。

『へぇー、海外旅行ってこんなにとっとと行動しなければならないんだ。』

と、心の中でいささか驚きながら、

『こりゃあ、いつもの俺のペースより少し早め早めに動くよう頭を切り替えなければならないな。』

と、少し反省しつつ、初めての一人海外旅行に一抹の不安が頭の中をよぎる。

やがて、この不安はとんでもない形で表面化してしまうのだが。

 

くれぐれも油断しないように

今回のポルトガル行きは直行便がないために、トルコのイスタンブール経由ということになっていた。そのトルコの航空会社「ターキッシュエアラインズ」のヨーロッパ便はほぼ満席であった。

幸い、私の席は通路側だったので、近頃近くなったトイレの心配をそれほどしなくてもいい。とはいえ、エコノミーの座席はいかにも窮屈でお尻が痛い。

私は飛行機の中では、ほとんど眠ることができない質(たち)である。そんなに神経質な方ではないはずだが、こればかりは仕方がない。そんなわけで、イスタンブールまでの13時間は、トロトロっと居眠りしたり、映画を観たりしながら過ごした。

今回の添乗員さんはちょっと年配の女性で、私を含め20人の高齢者(?)を引き連れるのは大変だろうな、と思ったが、割とハキハキと指示を出してくれる。その彼女が出発前に注意したのが、

「イスタンブールでのトランスファー(乗り換え)の時間は2時間くらいありますが、国際便での2時間というのは結構短い方ですので、くれぐれも油断しないようにしてください。」

ということだった。

 

バカデカいイスタンブール空港

さて、そのイスタンブール空港について、我々「65歳以上限定ツアー」の面々は、次の出発ゲートまで急ぐ。ご存知の方はわかると思うが、イスタンブール空港はとにかくバカデカい。羽田や成田の比ではないのだ。

我々が到着したのはAゲートで、次の出発はFゲートということである。広い空港内をAからFまで我々20人は脇目も振らず急いだ。だだっ広い空港内には、途中、免税店などが軒を並べていて、さながら大型ショッピングセンターみたいなエリアもあった。しかし、覗いている余裕などない。

というわけで、20分ほど急ぎ足で歩いて無事みんなFゲートについた。AからFといっても、それだけではない。それぞれにさらに枝番号が振ってあって我々が目指したのは「Fの12」ゲートであった。確か、Fだけでも18くらいまであったのではないだろうか。とにかく広いのだ。

「F12ゲート」の待合室は、まだ比較的空いていてソファーなどにも余裕があった。私はその隅の席に一人座り、出発前にちゃんと読みもしなかった旅行パンフレットなどを取り出して、改めて目を通し始めた。

さながら大型ショッピングセンター並みの空港内

 

つづく