もんどりうって海の方へ―九死に一生を得た話、もしあのとき・・・・・―Ⅰ

あれは、小学校に上がる前の年くらいの頃だったと思う。

私は、近所の大学生のお兄さんと仲良くなって結構可愛がってもらっていた。

 

その日も、お兄さんの自転車の後ろに乗せてもらい、海の方へと出かけた。

もう夕方近かったと思う。

 

海っぱたにつくとお兄さんは、幅一メートル足らずの堤防の上に自転車を上げ、そこを走り始めた。

片方は1メートルちょっとくらいの高さで道路である。

しかし、もう片方は7,8mの高さで石がゴロゴロしている海岸であった。

 

もし誤って、海の方へ落ちてしまったら命はない、くらいの高さであった。

私は

「お兄さん、ぼく怖いよ。」

といったのを覚えている。

それに対してお兄さんは

「大丈夫。俺は自転車の運転はうまいんだから。」

と応えた。

その言葉もはっきりと覚えているのだ。

 

狭い堤防の上を自転車を走らせ、やがて、堤防から海岸へ下りる階段が設置されている場所へ差し掛かった。

そこは、堤防の幅がさらに狭くなっている。

 

お兄さんは、自転車を止めてそこでいったん降りようとしたらしい。

ところが、足をついた、と思った場所は、その狭くなっていたところで、堤防がなかったのである。

 

二人はもんどりうって海岸の方へ落ちた。

「あっ、いけない!」

フッと身体が空中を落ちていく感覚を今でも覚えている。

 

次の瞬間、私は気を失ってハッと気がついたときは階段の途中にひっかかっていた。

私より下まで落ちたお兄さんが、上がってきて倒れていた私を抱きかかえ、堤防の上の道路まで登った。

 

なんだか左のあごの下が痛い。

私は、そこを大怪我していたらしく、血が溢れていたのだ。

 

お兄さんは、私を抱きかかえて町の方へ何か

「ごめんね。大丈夫?しっかりしてね。」

とか叫びながら走っていった。

そこから先の細かいところははっきりとしない。

 

次の記憶は病院でベッドに寝かされている自分の姿だった。

もう外は夜になっていた。

 

 

つづく