「できます!」と言うしかなかったあのとき―ハッタリの効用?想定を超えたテーマは人を成長させる―Ⅶ(おしまい)
もちろん、N総研のケースだけでなく、あのとき私たちは大なり小なりハッタリをかましてきた。
頼まれる案件の内容には未知のテーマが多く、実際できるともできないとも言えなかったからである。
「できません。」と言えば、受注は取れない。
自信のなさそうな顔をしても、相手は高い金で発注はしてくれないだろう。
やはり、ハッタリをかまして
「できます!俺たちしかいません!」
と言うしかなかったのだ。
とはいえ、無意識のうちにも私たちなりの計算はあったのだと思う。
というのは、全く畑違いの案件を頼まれたわけではなかったからである。
例えば『ヤングマーケット』は?と聞かれて、それまで仕事のテーマにしたことはなかったとはいえ、目の前にいる中年の真面目そうな主任研究員さんよりは、若い連中とも日常的に付き合いのある我々の方がはるかに詳しいだろう、という計算は心の中で瞬時に立ったのだ。
「アミューズメント」にしても同じである。
よく働きよく遊んでいた私たちは、そういったテーマに仕事の範疇でしか接したことのないこの主任研究員さんよりは、実体験として詳しいだろうと、瞬時に頭の中で判断したのだと思う。
だから、瞬間的に「できます!」という言葉が口を突いて出てきたのだ。
これが例えば「穀物の国際先物相場事情に詳しいかね?」とか「火星周回宇宙船の軌道計算についてのレポートが欲しいのだが・・・」とか言われたら、とても0.2秒で「できます!やります!」との返事はできなかっただろう。
さて、とにかくこのハッタリのおかげで当時の自分たちは、すさまじい勢いで成長できたのだと思っている。
あとからは、相当難しい案件でも「なんとかなる!」と、常に思えていた。
誰にでも勧められる手ではないが、自らを急速に成長させたければ、ハッタリは極めて有効な手段の一つではある。
おしまい