本性を垣間見た瞬間―そうか、この人やっぱりこれだよなー

「舘ひろし」という役者がいる。

1950年生まれというから、私より2歳年上の72歳、すでに70代を迎えた老年俳優といっていいだろう。

ただ、その佇まいは、今でもスマートでかくしゃくとしているためか「老年」といった感じはまるでしない。

「西部警察」や「あぶない刑事シリーズ」で有名になった人なので、その頃からのファンにはアクションスターのイメージが強いのかも知れない。

私はそのドラマも映画もちゃんと観た記憶がないので、むしろ近年の姿しか知らない。

 

近年では「終わった人」で、第42回モントリオール国際映画祭において最優秀男優賞を受賞している。

そのほかのドラマなどでも、しがないサラリーマンとかおとなしめのお父さん役とかが多かったためか、もうすっかりそっちの路線で行くのだろう、と思っていた。

 

と、そんなとき、BS放送で「ヤクザと家族」という映画をやっていた。

この映画で彼は、ヤクザの親分という役を演じている。

 

ヤクザ役とはいえこの映画でも、全盛期を過ぎてすっかり丸くなった老親分といった役回りだった。

近年、彼に抱いていたイメージ通りだったので

「こんな品のいいヤクザの親分なんてホントにいるのかな?」

くらいの感じで観ていた。

 

すると映画はやがて、この老親分が新興ヤクザの若手親分との縄張り争いについて、話し合いをする酒席の場面になった。

その席で若手親分に

「時代は変わった。あんたもそろそろ身を引いたらどうだ?」

と迫られる。

 

舘ひろし演じる老親分は、いつものように落ち着いた様子で応じていた。

そんな中、

「俺の命(たま)でも殺(と)ろうってのかい?」

というセリフを彼が吐く。

 

と、ここまでは穏やかな口調だった。

が、次の瞬間だった。

手にしていたグラスの酒をバシャッと相手の顔に浴びせて

「殺(と)れるもんなら殺(と)ってみいやっ!!」

と、ものすごい形相でにらみつける場面が映し出されたのである。

 

この瞬間、私は彼の本性というか本質を見たような気がした。

それまで彼に抱いていた静かな役者、というイメージとはまるで真逆の真の暴力的な迫力を感じたのである。

 

このシーン、それまで普通の演技をしていた普通の役者が、こういった場面のために思いっきり頑張って演じて見せた、といったレベルとは、格の違う本物のアウトローの一面を垣間見た気がしたのだ。

この人、怒らせたらかなりおっかない人間かも知れない、と思わせるには十分な演技だった。

 

まあ、めったに見せない裏の顔だからド迫力だったのだろう。

しょっちゅうじゃなくてもいいから、彼のこんな演技をまた観てみたい、と思った次第です。