コート、コート、コート・・・・コートについて思い出すこと22
正月あ明け、昼間っから1杯やるために、新宿伊勢丹のスタンドバー「サロンドシマジ」に向かった私。
真っ最中のバーゲンセールなどには目もくれず、バーにたどり着くはずだった・・・・
が、その日は5階まで上がったところで、あのコートのことが頭をよぎった。
5階にはアクアスキュータムの売り場がある。
あのコートに袖を通した売り場である。
そういえば、あのとき接客してくれたOさんも落ち着いた佇まいのきれいな女性だったなあ・・(どーでもいいですね、そんなこと)
あのコート、まあ、本当は気にはなっていたのだが、どうせ無理なんだから、と、忘れようと心掛けていたのだ。
しかし、誘惑には勝てなかった。
5階でエスカレーターを降りた私は、アクアスキュータムの売り場に向かう。
そぉーっと覗くと、たまたまOさんが売り場にいた。
「あのう、以前ここで見せていただいたスエードのコートですが・・・」
「ああ、あのときの・・・」
Oさんは私のことを覚えていたようだ。
未練がましく伊勢丹のアクアスキュータムの売り場に立ち寄った私。
以前も接客してくれたOさんに
「あのコート、もうありませんよねー・・・」
と、『あって欲しい』という気持ちと『売れてりゃあ諦めもつく』という気持ちがないまぜになって、なんとも歯切れの悪い聞き方で確かめてみる。
するとOさんは、その美しい笑顔をほころばせながら、
「いえ、確か1着残っておりましたよ。持ってまいりましょうか。」
『げっ、まだあったのか。あれだけの逸品、もうとっくに売り切れていると思ったが・・・・』
私は心の中で、『売れてりゃあ諦めもつく』という選択肢が消え去ったことを自覚させられる。
『でも、1着しか残っていないということは、サイズが合わない可能性も高いし、まあ、無理なんじゃないの。』
と、まだ諦めの悪い独り言を、私は心の中で繰り返していた。
そうすると、Oさんが件のコートを抱えて売り場に戻ってきた。
透明のカバーに大事に包まれたそれは、私の目の前で取り出され、Oさんが
「ちょうどいいサイズだと思うのですが、さ、どうぞ。」
と後ろから着せ掛けてくれる。
こうなるともう抗うことはできない。
大人しく彼女のエスコートをいただいて袖を通す。
そうやって袖を通し、しっかりと羽織って、鏡の前に立つ。
薄目をあけるように『サイズは・・・・・?!?』と、恐る恐る確かめようとする私・・・・
すると
「ぴったりですね。」
まるで最後の裁定を下す女裁判長のように、彼女の声が耳に入った。
実にシンプルなコートなんですが・・・・
つづく