コート、コート、コート・・・・コートについて思い出すこと21
昔から、スエード素材の素敵なコートが欲しかった私。
結局、そんな素材のものは見つからず、そのことは長い間忘れていた。
ところが、神様のいたずらであろうか、あの昔欲しいと思っていたものの見つからなかった憧れのコートが目の前に出現したのである。(そんな大げさな話でもありませんが・・・)
そんな潜在的だった記憶もあって、雑誌で見たときにピンときたのだろう。
その埋もれていた記憶に火がついたのである。
「ああ、このコート。遠い昔、俺が欲しかったアレだよなあ~・・・」
アクアスキュータムのそれは、50年くらいの時空を超えて、いきなり私の前に出現したスエードの逸品であった。
まだ若かったあの頃、なんでそんなスエードの渋いコートが欲しかったのか、今では思い出せないが、結局根本のところの好みは何十年経とうが変わらない、ということなのだろう。
さ、というわけで
「欲しい・・・いや無理だ。でもなあ・・・」
と、気持ちがあれこれと逡巡しているうちに年が明けて、世の中はセールの季節に入った。
特に暖冬だった今期は、セールが始まるのも早く、値引きの率もやや大きめだったような気がする。
ちょうどこの頃、私は伊勢丹の8階にある「サロンドシマジ」というスタンドバーに通い始めていた。
「サロンドシマジ」については、やがて詳しく書くことになると思うが、とにかく、そのバーのバーテンダーであり、そこに集う人たちの親分格でもある島地勝彦さんに、ぞっこん傾倒してしまい、上京の折りには足繁く通っていたのだ。
島地さんのプロフィール。とにかくすごいお方です。
年明けに上京したその日も、昼間っからシングルモルトを一杯やるために、「サロンドシマジ」のある伊勢丹に向かった。
新宿に着き、伊勢丹のメンズ館に足を踏み入れると、館内はすでにセール真っ盛りであった。
男性向けの様々な魅力溢れる商品が、お値打ち価格になっているようだ。
とはいえ、今日の目的は買い物ではない。
セール商品など目もくれずに、8階の「サロンドシマジ」を目指す。
私は「サロンドシマジ」を訪れるときには、8階と遠いにもかかわらず、エレベーターを使わない。
1階ずつエスカレーターで登りながら気分を高めていくのだ。
つづく