電卓と決算表

ある日、労働署から呼び出し通知が届いた!? Part(2)

【調査の流れ】

  ある日、労基署から呼び出し(来署依頼)の通知が届いたという経験はないでしょうか。調査は、労基署への呼び出しから始まる場合もありますが、事業所への立入調査が行われることもあります。

▼飲食業D社のケース

1.労基署からの来署依頼通知が届く

  D社は、中堅レストランを運営する社員20人の会社です。味と接客の評判がよく、遠方から足繁く通う常連さんもいます。

  しかし、D社も例外なく不況の煽りを受けており、メニューを増やしたり、仕入原価を抑えたりと様々な経営努力をしていますが、経営はぎりぎり、といったのが実状です。

  ある日、社長のもとに労基署から、「来署依頼通知」が送られてきました。内容は、「元社員Tより、割増賃金等の労働条件について申告があったため、▲月▲日に来署するように」というものでした。

  また、当日は、下記の労働関係書類等を持参するようにと記載されていました。

   ●来署依頼通知書

   ●印鑑

   ●社員Tの雇用契約書

   ●賃金台帳

   ●出勤簿、タイムカード

   ●就業規則

   ●その他、参考になるもの

2.「是正勧告」を受ける

  指定された日に、A社長は、総務・人事担当のBさんとともに、管轄の労基署に行きました。担当の労働基準監督官(以下、監督官)によると、退職した社員Tが、保管していた給与明細と、自分で作成していた出勤記録を持参し、「未払いの賃金があるので、何とかしてほしい」と申告してきたとのことでした。監督官は、社長とBさんに、Tの勤務状況などをヒアリングすると、会社が準備した書類と、退職した社員が持参した書類を比較して、こう切り出しました。

  「申告があったうちの3か月分の賃金については、適正に支払われていますが、残り1年分に未払いの賃金があります。これは労働基準法第37条違反になります。未払い分の合計はおよそ80万円程度になるでしょう。『是正勧告書』を作成しますので、是正期日までに残りの賃金を支払った上で、『是正報告書』を提出してください」。渡された「是正勧告書」には次のように記されていました。

■「是正勧告書」の内容(一部抜粋)

 ・法違反条項:労働基準法第37条

 ・法違反条項:T氏の平成×年7月~平成▲年6月までの時間外労働に対し、2割5分以       上の率で計算した割増賃金を支払っていないこと。

 ・是正期日:平成▲年9月10日

●「是正勧告書」とは・・・

  労働基準法などの違反行為には、1:法違反条項、2:違反内容、3:是正期日(期限)が記載された書面が監督官より交付されます。また法令違反には当たらないが、改善すべき点がある場合には、「指導票」が交付されます。

3.「是正勧告」への対応と是正報告

  A社長は、不払い分の賃金を指定された口座に振り込み、その振り込みが確認できる資料と修正した賃金台帳を添付して、是正報告書と一緒に、監督官に提出しました。

■「是正報告書」の内容(一部抜粋)

 ・法違反条項:労働基準法第37条

 ・是正内容:ご指摘がありました、T氏の平成×年7月~平成▲年6月までの時間外労働に対し、割増賃金を支払いました。

 ・是正完了年月日:平成▲年9月3日

●「是正報告書」とは・・・

  労働基準監督官から交付された是正勧告書(指導票)の是正事項について、使用者が是正・改善した内容を記載した書面です。

⇒経営が厳しく、資金繰りもひっ迫する中、A社長には、この出費は手痛いものでした。

 A社長にも言い分があり、元社長Tの勤怠態度から彼が主張する残業代には異論もありましたが、それを証明する書類もないため、勧告通りに支払いに応じました。

 A社長はこれを反省し、これからは適正に勤務管理及び残業の把握をして、社員とも真摯に話し合う必要性を感じたのでした。

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是正勧告や報告には誠実に対応する

  労基署からの勧告等に対して、言い分や反論もあるでしょうが、まずは誠実に対応してください。もし、労基署の是正勧告を無視し続けた場合は、書類送検されるおそれもあります。

  あるいは、虚偽の報告(出勤データ、賃金台帳の改ざん)には30万円以下の罰金の他、書類送検されることもあります。

  特に、「賃金不払い」「最低賃金違反」は悪質な法令違反と判断され、書類送検される可能性が高くなります。是正期日までに、改善が間に合わない場合は、事前に、今後のスケジュール等を含め、監督官に誠実な態度で報告しましょう。